2022.10.12

”い草”を育て伝統を紡ぐ「農業女子」に密着!

「カツオ・マグロの水揚げ金額が日本一」のさかなのまち焼津市で農業も盛んに行われていること、ご存じですか。
焼津市は漁業のイメージが強いまちかもしれません。

今回の記事では、そんな焼津市で「農業」に取り組む若者に着目します。
お話を伺うのは株式会社キツタカ(以下キツタカ)の横田菜々さんと望月愛加さん。

    (左から)望月さん、横田さん

耕作放棄地の利活用に取り組んでいるおふたり。
焼津市田尻北の田んぼをお借りして、い草とお米を栽培しています。

※い草…畳の原料となる、い草科の多年生植物。別名:トウシンソウ(燈心草)。

横田さんはい草農業を始めて3年目。
望月さんは2022年の9月に転職し農業を始めたばかり!

横田さんは自身の活動をYouTubeに投稿しているのでそちらもチェックしてみてください!

HACCHI /農業VLOG
https://www.youtube.com/channel/UC61md_Utwwm3DQCBP-8MCdg/featured

訪れたのは、キツタカの事業所(焼津市吉永)。

ござを編む織機がある倉庫に案内していただきました。
倉庫の中はい草の香りでいっぱい!

        ござを編む織機

ござの編み方の説明をしてくれた横田さん

 織り途中のござ

織り途中のござは網目が密で丁寧……

最近は身近にござを見ることもなかったので、網目のきれいさに見とれてしまいました。

い草の乾燥・泥染めなど手間のかかる工程を経て編まれていることに驚き!

●あわせて読みたい!まちリポ記事
耕作放棄地で育てる「イ草」と地域の輪
https://yaizulife.jp/news/9418/

 

い草×お米の栽培で、地域も農家もうれしい

耕作放棄地でい草とお米を栽培しているというおふたり。
最初に、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみました。

「い草栽培だけでいいんじゃないか」と。

__なぜい草とお米の両方の栽培を行っているのですか?

横田「い草を連続で植えると“連作障害”が起こってしまうので、土の中に溜まった窒素を吸わせるために別の作物を栽培しています」

連作障害!?
お米は肥料をまけば毎年同じ田んぼで栽培できるけど、い草はそうではないんですね。

横田「2年連続で同じ田んぼにい草を植えたら、2年目はあまり育たず、長さも短くなってしまったんです」

なるほど!
い草が短いとござの端が揃わず、きれいに編めないといいます。

横田「それで、土の中の窒素を吸うのに1番いいのがお米かなと。需要があり、買ってもらいやすいというか」

焼津の方が手掛けたお米が食べられることはうれしいですね。

い草農家にとっても連作障害対策になるため、農家・消費者どちらにとっても利がある素敵な取り組み!

2021年に「い草の裏作で取れたお米」として販売したところ大好評だったそうです。

い草栽培の様子

海の近い焼津市ならではの”塩害”

__今、困っていることはありますか?

横田「今お借りしている田んぼの中でも、塩害で使えない場所があることです」

なんと、焼津市に塩害で使えない田んぼがあるとは知りませんでした。
塩害とは、田畑に海水が入り込んでしまい、水はけが悪くなる等、栽培環境が悪化してしまうこと。

海水が田んぼに入ってきてしまう問題は海が近い焼津市ならでは。
塩害による耕作放棄地の増加は、農家の減少と併せて問題となっています。

い草の栽培で耕作放棄地の再生に取り組み始めて2022年で6年目。
今後、海水が田んぼに入らないように市と基盤整備を進める予定だそうです。

市も耕作放棄地の減少に力を入れようとしていることを喜んで話してくれました。

 

お話してくれた横田さん

 

__今後挑戦したい商品は?

横田「持ち運べる“置き畳”があるのですが、薄くて軽い置き畳を作りたいです。調湿・消臭・リラックス効果など、畳にはいいことがたくさんあるのに、『張り替えるのが面倒だから、フローリングにしよう』を変えていきたい」

張りかえる必要がない”置き畳”。
畳のぬくもりをより手軽に、より身近に感じられるように!と意気込みを語ってくれました。

 

農業未経験から、い草農家へ挑戦

次に、望月さんに農業に携わることになった経緯や、い草農業への想いを聞いてみました。

インテリアの”置きい草”を持つ望月さん
(”置きい草”は良い香りがします!)

望月さんは焼津市出身。専門学校卒業後は焼津市外の会社に就職。
地元焼津市で農業をしている同世代の女性ということで横田さんのことを知っており2021年に横田さんにSNS上で連絡。

い草の刈り取り・泥染め作業などに参加させてもらったそう。

ものすごい行動力!

その半年後、2022年1月に横田さんから連絡があったことをきっかけに、9月からい草農家に転職しました。

横田「1人だとアイデア出しや商品開発には限界があるから、一緒にできる女性がいないかなって思った時に、前手伝いに来てくれたあの子…いいなと思って(笑)」

最終的には横田さんからの逆オファーだったとか!

それでも、仕事を辞めて全く別の業種に転職するってかなり勇気がいるんじゃないのかな……

 

__どうして転職を決意できたんでしょうか?

望月「アイデア次第でなんでもできるい草に惹かれたからですね。商業的にい草を栽培している(※)のは静岡県でここ(キツタカ)だけだし、強みがあるのにまだ売り出し切れていない気がする。だからこそ挑戦したいと思いました」

(※自家栽培ではなく、販売目的でい草を栽培していること)

生活様式の変化の中で、畳のある部屋は減ってきているように思います。
「どうやって売り出していこう」と考える仕事はやりがいがありそう!

望月「たぶん、野菜や果物の農業だったらやっていなかったし、前の仕事を続けていたと思う。い草だからこそ日本の文化を伝えたり、アイデア次第で売り出せたりすることに惹かれてやってみたいと思いました」

とも話してくれました。

収穫したばかりのい草

最後に、お2人に今後の目標を聞いてみました。

__今後の目標は?

横田「青々しく長い い草を作って、ブランド化していくこと。あとは焼津の海産物と一緒にアピールできるといいですね。『い草って何?』っていう方もいると思うので、まず、い草自体を知ってもらいたいです」

望月「両親も漁業に携わり、自身も水産高校を卒業したので、そうした経験から培った視点とアイデアを掛け合わせ活動していきたいです」

笑顔で話す望月さんと横田さん

「漁業×農業」。今後の取り組みを楽しみにしています!

 

取材をおえて

筆者自身も浜松市の山間部で棚田(約3a)※をお借りして耕作放棄地解消を目的にお米作りをしています。
※棚田…傾斜がきつく、耕作単位が狭い傾斜地にある稲作地(田)のこと。

 

棚田には大きな機械が入らないため、農作業のほとんどを手作業で行います。
それゆえに重労働で非効率的です。

そのため、高齢のために農作業が難しくなり耕作をやめていく人が増えています。

今後、耕作放棄地は増えていくことが予想されます。
では、農作業が難しければ耕作放棄地はそのままでもいいのでしょうか?

 

耕作前の棚田の様子(浜松市北区)

実は田んぼには、耕作することで発揮される”多面的機能”があります。

例えば、生き物の棲み処が増えたり水を蓄えることで自然のダムになったり美しい風景が人々の心を癒したりといった作物が収穫できる以外の潜在的な機能のことです。

筆者は中学生の時、校舎の窓から田んぼを見るのが大好きでした。
青々と稲の茂る風景は夏を感じさせたし稲穂が黄金色になれば「もう秋か」と思ったり。

田んぼのある風景は、人びとの心も癒しているのかもしれません。

こうした大切なことはやめてしまうのではなく小さくても長く、続けていきたい。

「耕作しない」ことで多くの弊害が生じます。

そのため、現在耕作をしているひとりとして周囲の環境が変わっても、棚田に関わり続けたいと考えました。

そして、今回お話を伺った横田さん・望月さん。

畳文化を継承しよう。い草をもっともっと広めようと熱意を持った若者が、焼津にはいます。
おふたりの取り組みから、い草や耕作放棄地のことについて知っていただけたらうれしいです。

まちかどリポーター:やぎちゃん
この記事を書いた人
焼津まちかどリポーター 
やぎちゃん

藤枝市出身。静岡文化芸術大学4年生。農村社会学専攻。人との新しい出会いや会話が好き。来春から新聞社に入社予定で、焼津で取材・記事作成スキルを学びたいと考えまちリポに参加。特技はけん玉。
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