2017.09.25

町の本屋の夢は「心」を育てること

サービス業
焼津書店
マネージャー

鈴木 陽子さん

やいづ応援団
40代
静岡県焼津市
= Profile =
1976年生まれ。焼津市出身。静岡大学教育学部数学科を卒業後、一般企業で塾の講師の勤務を経験。その後、父親が経営する株式会社焼津書店に入社。店頭での接客から商品の仕入れ、スタッフの教育など、マネージャーとして幅広い役割をこなしてきた。

代を繋ぐため、まずは仲間を集める

 わたしの父は経営者でした。2017年に創業38年目を迎える古本屋で、わたしは2代目になります。大学は静岡大学教育学部数学科に進学していて、卒業後は塾の講師の仕事をしていました。「国語じゃないの?」と言われることもあるんですが、数学の答えを解いていく感覚が好きだったんですよね。
 でも、やはり自分の軸にあったものは、幼い頃から経営者である父のもとで本に囲まれて育ったことや、お店を手伝っていた母との思い出も絵本の読み聞かせでした。読み聞かせはお店で忙しい親と一緒に過ごした思い出深い時間でしたね。
 後継者であることを意識してからは、異業種交流会やセミナーに参加したり、焼津信用金庫主催の経営講座に毎月通ったり、はじめは勉強の連続でした。地元の方であれば、焼津書店は「古本屋」でお馴染みですが、書店が激減している時代の中で、どう書店としての魅力を掘り起こし、役割を果たしていくか、課題は山積みでした。
 同じように2代目としてがんばっている友人と講座でもお世話になった信用金庫の支店長さんに相談してみたり、女性の経営者仲間を集めてみたり。そうすると、すぐに10名ほどの女性経営者が集まりましたね。地元(焼津を中心に)頑張っている女性とつながることで、わたし自身成長することができましたし、モチベーションアップにもつながりました。

原点は、私と本との記憶

 仲間が増え、仕事以外の活動・交流が活発していくと、勉強にもなる反面、やはりどうしても仕事とのバランスが取りにくくなったり、つい身体や心を休める時間を削ってしまったり……、気づけば体調を崩してしまっていました。ちょうど1年前くらいでしょうか。
 でも、「頑張りすぎず、まずは自分らしく」、その言葉を自分自身に言い聞かせながら、自分が本当にやりたかったことは何なのかを考えてみたんです。「お母さんが読んでくれた絵本が大好きだったなあ」とか、「おすすめの絵本を決められないくらい沢山読んだなあ」とか。そんな風に思いを馳せていたときに気づいたことは、『自分には数え切れないほどの絵本の記憶があって、それが同時に財産になっているんだ』ということでした。
 思えば父も、焼津書店を開店した当初から、『子どもたちに本を読んでもらいたい!』という強い想いがあって、当時から児童書コーナーに力を入れていたんです。本のジャンルのなかでも、コミックや文庫本に比べて絵本はあまり売り上げが伸びないのにもかかわらずです。やはり本から学ぶことってたくさんあるし、感受性が多感な時期に読む本は心の成長に大きく関わると思うんですよね。創業者である父と、2代目である自分の思いがかっちりと重なった瞬間でした。

絵本の世界とあたたかい言霊を子どもたちへ

書店の仕事とは別に、実際に絵本の読み聞かせを地元の子どもたちに行ったことがありました。小さい子もスマホを使う時代だからこそ「絵本」に興味をもつかどうか、当日まで不安を抱えていました。でも、驚いたのは子どもたちの集中力。小学校低学年の6~8歳の子たちですが、本当に感受性が強くて、じっくり絵本の世界に入り込んでくれました。
 そんな子どもたちを見ていたら、書店を継ぐ前に働いていた塾の中学生を思い出しましたね。中学生は受験勉強のために塾に通っていますから、当然集中力はあるんですけど、それと匹敵するくらい。「時代は変わっても子どもたちの感受性・探求心というのは変わらないんだな」と、とにかくうれしかったです。

 焼津書店の夢は「本育」ですが、子どもたちが暮らすまちとしても焼津はいいところです。犬の散歩をしたり、高草山から自分の暮らしている焼津を見たり、ほっとできる場所がたくさんあります。案外、この当たり前のことが都会では難しくて。農家民宿をしている親戚が東京の小学生が泊りにきたときに花火をしたら、「人生初めての花火!」ってとても喜んだそうです。子どもたちの感受性を育てていけるような要素が焼津にはたくさんあるんじゃないかな?焼津書店も、そんな子どもたちの居場所をつくっていけるような場所になりたいですね。

鈴木 陽子さんがオススメする焼津のイイトコ

「高草山」
焼津市と藤枝氏の境目に位置する標高501.4メートルの高草山。「山頂から見る焼津のまちがとにかくかっこいいんです」と鈴木さん。駿河湾を一望でき、夜であれば、その駿河湾と焼津のまちを横切るように走る高速道路の光のコントラストが美しいそう。
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